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最高裁判所第二小法廷 昭和31年(し)29号 決定 1956年7月04日

主文

本件特別抗告を棄却する。

理由

申立人(弁護人)細田綱吉の抗告理由(後記)について。

記録によると、被告人増田義一は昭和三一年一月九日水戸地方裁判所土浦支部において、公務執行妨害・暴行被告事件につき罰金二千円と懲役六月の判決言渡を受け、同月二〇日原審に控訴の申立をなし、原審は同年二月一一日被告人に対し昭和三一年三月一三日までの控訴趣意書差出期間通知書と弁護人選任に関する通知を郵便に付して送達したところ、被告人は同月二〇日私選弁護人を選任する旨の回答書および弁護士山本粂吉を弁護人に選任する旨の届書を原審に提出したが、前記控訴趣意書提出最終日である三月一三日までに被告人はもちろん弁護人からも控訴趣意書が提出されなかったので、原審は同月二四日に控訴を棄却する旨の決定をなし、該決定は同月二七日被告人および弁護人に送達されたこと、ならびに被告人およびその弁護人細田綱吉は被告人が前記控訴棄却の決定の送達を受けた当時病気であり、右裁判に対する不服申立期間は一四日であると誤信していたことを事由として同年四月五日原審に上訴権回復の請求をしたが、該請求は同年五月八日棄却されたので、これに対し同月二三日原審に異議の申立をしたが、右申立も同年六月六日に棄却されたことが認められる。

しかし、刑訴三六二条にいわゆる「責に帰することができない事由」とは、上訴不能の事由が上訴権者又はその代人の故意又は過失に基かないことをいうのであって(昭和五年(つ)四号同年二月一五日大審院第三刑事部決定、刑集九巻七〇頁参照)、被告人が前記控訴棄却決定の送達を受けた当時病床にあり、医師より絶対安静を命ぜられていたために不服の申立をすることは不可能であるというがごときは、これに該当する事由にならないことが明らかである。されば、原判決の判示は正当であって、本件抗告理由は、違憲をいうが、その実質は刑訴三六二条の解釈に誤りがあるという法令違反の主張に帰し、特別抗告適法の理由にあたらない。

よって、刑訴四三四条、四二六条一項により裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 谷村唯一郎 裁判官 池田 克)

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